ここにある。

2016年夏。乳癌になっちゃったよわたし。

手術当日(2)ベタドラマ

2016年11月28日 手術当日つづき!

手術着に着替えて待ってると
10時過ぎ、看護師さんが迎えにきてくれたよ。

点滴を引き引き手術室へ歩いてゆきます。
付き添いの夫も途中まで一緒。
もし 術中に「やはり全摘が望ましい」などと
予定を超えた事態に陥り決断を迫られたら
そうしてくれと 麻酔下にいる妻に代わって先生に伝えておくれと願いしておいたよ。
入口で夫とは一時バイバイ

夫、さみしそう。
大丈夫。妻はすぐもどってくるよ。
そこら辺プラプラしてきたらいい。
そしたらあっという間。


手術室スタッフさんへとバトンされるわたし。
名前や生年月日を確認。

その後手術帽って言うんですかね。
ほら、薄いブルーの給食当番帽みたいなやつ。
あれを被せてもらって、更に奥へ。



こちらへどうぞ。
と通された部屋には手術台。

Σ(゚∀゚)わー!ドラマみたい!
広い部屋の真ん中にベッドがひとつ。
医療ドラマみたい!
ちょっとテンション上がってきちゃった。

結構高い位置にあるので
手を添えられながらそのベッドの上へ。


さてさて。
スタッフさん4、5人いたろうか。
粛々と そして淡々と わたしを取り囲み準備を進める。

このスタッフさんたちにとっては、
この医療ドラマみたいなところが「いつもの職場」なのね。
カッコイイわ。とても。


そして頭の上の方から
「こんにちは 麻酔科の〇〇です。
今から腕にお薬流しますね。」て。

そうなの、ここにいる方々、
わたしには みんなはじめまして。
でも、みんなマスクしてる。
目元しかわからない。
絶対街ですれ違ってもわからない。
こんなにお世話になっているのに、素顔も知らない。
SNSみたいだね☆


そして。
その、はじめましての麻酔科の先生ちゅーたら
なんか無口そうなオッサンをイメージしていたのだけど若い女のコだった。

高校球児はみんなお兄さんだと思ったら
いつの間にか年下になり。
お相撲さんはみんな年上だと思ったら
いつの間にか年下になり。
ついには病院の先生までもが
わたしより年下になるというのですか。
エラいこっちゃ。
次は誰が年下になってゆくのかな。(遠い目


さっきまで点滴を流してたチューブに
何らかの液体がサラーと流された。
麻酔科の先生に「どうですか?」と訊かれて
「冷たいのが入ってきた~って感じです」
と答えるわたし。

…いいのだろうか、この答えで。

「あ…ちょっと眠くなってきました…」
とか答えるのが正解だろうか。
でも眠くはならなかった。

ということは。
もしかするとコレは うまくいくかもしれない。

そう。
わたしには野望があった。
それは「この人麻酔が効きません!」と
麻酔科の先生を慌てさせるという野望。

何のためなのかはきかないで。
わたしにだってそんなのわかんないんだから。
ただそんな野望が胸の中で静かにメラメラと燃え上がっていた。

20代の頃別件で手術を受けた時、
まんまと思惑通りに眠らされてしまったからね。
今回こそは絶対に 伏し目がちに
「なんか…効きません」と言って
麻酔科の先生を驚かせるのだ!

マスクを口元にあてがわれたよ。
来たな、これがわたしを眠らせようとするガスか。

「深呼吸してください」

20回くらい深呼吸しても眠らない!
絶対に!


すー…(1度目

ワハー ヤメテー
そりゃもうドラマの演出かな?くらいに
視界がグワン…と揺れたよ。
こんなベタな表現でくるんだっけ麻酔て?


すー…(2度目





マジでやられた。
絶対眠らないという かたい決意でもってしても
たった2度の深呼吸で完っっっ全に眠らされた。
そこからもう何も覚えていない。

麻酔科の先生…
アタイの負けさ…ふゅっ…


さっき2度目の深呼吸で
記憶が途切れたかと思ったら今度はイキナリ
「終わりましたよ。目ぇ開きます?」
って声かけられた。

…頑張って目ぇ 開いたら
わー!こういう場面見たことある!と思った。
ドラマで観る、目覚める人が最初に見る景色の描写。
こんなだよねいつもだいたい。
自分を取り囲む人たち。
だけど人影としか認識できない。
誰が誰なんて全然わからない。
なんてベタな描写なんだ。
ほんとにこんなふうに見えるものなのか。


そこでわたし気づいた。

あぁ、そういえば。
手術室へ入ってから1度もA先生に会うことなく
眠らされてしまったんだったなわたし。

ほんとはA先生に 手術始まる前に
「よろしくお願いします」てご挨拶したかった。
挨拶大事。

そして今、手術が終わりましたよと
声をかけられ目を開けてみたら
人影の数はさっきと変わってないみたい。

きっとA先生は手術を終えて
すぐにまた帰ってしまったんだな。
忙しい人だから…。
結局最後まで意識のあるうちに
会うことはなかったのか…。

わたし、力を振り絞って声を出した。


「A先生に…」

「くれぐれも…」

「ありがとう…」

「ございましたと…」

「お伝え…」

「くだ…」

「さい……ガクッ(果てた」

どうせならベタドラマの女優みたいに
儚げに言えたら美しかったんだろうけど
術後の声枯れと 舌がもつれてうまく喋れないことで
息も絶え絶えになっちゃって。
実際には取り組み後の関取インタビューみたいになってたなきっとわたしな。
でも、伝えるべきことは伝えた。
挨拶大事。


そしたらスタッフさんが答えてくれた。

「A先生 今ここにいますよー」

って 先生まだおったんかーい\(^o^)/
寝ぼけててゴメーン
見えてなかったー

直接言えたってことになるんだろうかさっきので。
でも関取インタビューがかなりの精一杯だったから、
もうそれっきり声を出すことも
目を開けることもできないわたしでした。
(死んだわけじゃないよ)

ストレッチャーに移されたのかな、
1度体が持ち上げられて
うぅっ...となったのは覚えてるけど、
もうそこからなーにも覚えてない。



気づいたらわたし病室に戻ってた。
隣のおばあちゃんがテレビ観てるようで
うふふ…はは…とか笑ってるのが聞こえる。

夫がわたしの写真を撮っているのが見えた。
何撮ってるんだ。
女優さんみたいだからって。
妻がカワイイか。
カワイイんだなコラ。

そうだ。
しめしめ。
驚かせてやろう。

「夫…夫…」

「え?なに?」

「わたしはもう…ダメだ…(ガクッ」

と言ってあげた。

あとは夫がわたしにすがりつき
「死ぬなー」と泣く。
そんな予定。

でもわたしね、麻酔が抜けきってないために
たったひと言のセリフすらも
うまく伝えられなかったようで、
こんな時しかできない一発渾身のフリも虚しく
「あぁ…」というぬるい反応だけで
夫との茶番劇は終わった。
なんということだろう。


「今何時?」

「11時45分」

手術室行ってから1時間ちょっとしか経ってないのだね。
なんて迅速な手術なんだろうかね。

そこからうつらうつら。

次、夫に
「ゴハン食べた?」って訊いたら
「食べたよ」と答えていたんだよね。
あれ?
いつ食べに行ってたんだろ?
手術終わったの11:30くらいで…。
おう?????
そして夫は何を食べたんだろか???
どこで???

コレを書いてて初めて気づいたんだけど、
そこら辺の記憶があまりにも曖昧だから
隣にいる夫に今訊いてみた。

「わたしあの後もしかして寝ちゃってた?」

「うん」

「その間に食べに行ってたの?」

「そう。」

「どこで食べたの?」

「病院の食堂」

「何食べたの?」

「カレーとうどん」

あ。2つも食べてたのですか。
絶食の妻が寝てる間に。

いやはや、術後ひと月以上たってから初めて知ったよ。
夫はずっとベッドサイドにいたと思ったけど
わたし夫がゴハン食べに行って帰ってくるまで
気づきもしないくらい眠っちゃってたんだな。
すごいな麻酔て。

死ぬ間際もこれくらい虚ろで
痛みもなく 幸せだったらいいのにな。



ようやく携帯がいじれるくらいに
意識がハッキリしてきたのは
午後1時を過ぎた頃だったろうか。

疲れて眠っちゃった夫と一緒に写真撮った。

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心配かけてごめんよ。
来てくれてありがとう。

もう癌のかたまりは、なくなったんだね。

ところでわたしのおっぱい。
どうなったんだろか。

つづく☆